大判例

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岡山地方裁判所 昭和29年(行)4号 判決

原告 藤沢若数 外三名

被告 玉島市長 外一名

一、主  文

原告等の訴はこれを却下する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は、「一、被告玉島市長は玉島市大字南浦部落を玉島市より分離せしめる決議をなすよう措置しなければならない。二、被告岡山県知事は被告玉島市長及び浅口郡奇島町に対して玉島市大字南浦部落を玉島市より分離し浅口郡奇島町に編入するため玉島市に対しては南浦部落を玉島市より分離する旨の、奇島町に対しては南浦部落を奇島町に編入するようそれぞれ決議をさせるよう適切な措置をしなければならない。三、訴訟費用は被告等の負担とする」旨の判決を求め、請求の原因として、「原告等は旧浅口郡黒崎町南浦部落の住民であつて現在玉島市に編入され玉島市南浦部落住民となつている。玉島市は昭和二十八年四月一日当時の浅口郡黒崎町を同市に編入したが、元来南浦部落は地勢的に、人事交流の面からも、経済的、文化的な面からも、交通教育関係から見ても玉島市に編入されるよりも隣町の奇島町に編入されることが合理的で且つ住民にとつて便宜であるので全部住民は奇島町編入を熱望し、玉島市に合併編入することに反対していたのであるが、昭和二十八年三月十一日南浦部落代表赤沢利一と被告玉島市長、黒崎町長岡部茂与、岡山県会議長蜂谷初四郎、県地方課長土田兼孝、浅口郡地方事務局所長蜂谷堅、他二名との間に

(イ)  黒崎町は昭和二十八年四月一日を期して一応その全部の区域を以て玉島市と合併する。

(ロ)  玉島市は編入後昭和二十八年四月五日南浦部落の去就について公正な方法で部落の意思を問うものとする。

(ハ)  前項の方法によつて南浦部落の民意を問うた結果その過半数以上のものが奇島町編入に同意することになつてときは玉島市は南浦部落の分離を認め奇島町に編入することに必要な措置をすみやかにとるものとする。

との協議が成立し、関係者一同連署により其の旨の覚書を作成し、被告は何れもその覚書を厳守することを確約した。而して昭和二十八年四月五日右覚書に基き住民投票を実施したところ南浦部落を玉島市より分離し奇島町に編入することに賛成するものが多数投票を得たのでその投票の結果を四月六日被告等に通報したところ被告等はその事実を了承し至急分離編入の手続をとる旨回答したが、その後現在に至るまで被告等は何等その手続を講じない。そこで原告等は南浦部落住民とした町村合併促進法第十一条の三に基いて前記覚書の趣旨の実行を求めるため本訴を提起した次第である。」と述べた。(立証省略)

被告玉島市長訟訴代理人は本案前の答弁として「原告の訴を却下する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、その理由として市町村の廃置分合、地域変更について個人に訴権を認めた法的根拠なく、本訴において原告等は当事者適格を欠く又請求の趣旨が分離議決を求めているのであれば玉島市長は被告適格を欠き又分離決議をするよう骨を折れというのであれば法律的に無意味で権利保護の利益を欠くから訴を却下すべきであると述べ、請求の趣旨に対する答弁として「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、原告主張事実中南浦部落が玉島市に編入されたこと、原告主張の如き覚書が作成され住民投票が実施されたことは認めるがその余の主張事実は争う。原告主張の覚書は法律以前の性質を有する政治的協定であつて、法律上の意味のあるものではない。仮りに法律上意味があるものと仮定してもこの協定は強行法規である地方自治法に違反する無効な協定である。而して本協定に原告等は参加していないからこの協定に基く履行を請求する権利はないと述べた。(立証省略)

被告岡山県知事訴訟代理人は本案前の答弁として「本訴はこれを却下する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求めその理由として原告等は南浦部落民の代表者ではなく何等直接訴訟利益を有するものではではない。民衆争訟として行政訴訟の対象となるのは直接自己の権利を主張する争訟のみであつて、然らざるものは特に法律が認めている場合の外は許されない。又原告等は被告岡山県知事の行為を要求するものであるがかかる訴訟は三権分立の立前から司法裁判の範囲外であつて不適法であると述べ請求の趣旨に対する答弁として「被告の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする」との判決求め、原告等が南浦部落の住民であること、玉島市が黒崎町を編入したことその際南浦部落も黒崎町に編入されたこと、原告主張の如き覚書作成の事実は認めるがその余の事実は争うと述べ、南浦部落の分離問題については岡山県知事としてはあらゆる情勢を検討し最も適切な措置を考慮中であるが現在原告等の本訴請求には応じ難いと述べた。(立証省略)

三、理  由

原告等の本訴請求は之を要するに、昭和二十七年三月三十一日旧浅口郡南浦部落代表赤沢利一と被告玉島市長他六名との間に成立した覚書に基き、旧浅口郡黒崎町南浦部落の住民として、「一、被告玉島市長は玉島市大字南浦部落を玉島市より分離せしめる決議をなすよう措置しなければならない。二、被告岡山県知事は被告玉島市長及び浅口郡奇島町に対して玉島市大字南浦部落を玉島市より分離し浅口郡奇島町に編入するため玉島市に対しては南浦部落を玉島市より分離する旨の奇島町に対しては南浦部落を奇島町に編入するようそれぞれ決議をさせるよう適切な措置をしなければならない。」旨の判決を求めるのであるが、裁判所に対して訴を以て判決を求むるには、如何なる内容の判決を求めるかについて、請求の趣旨を一定することを要し、単に「……分離せしめる決議をなすよう措置しなければならない」とか「決議をさせるよう適切な措置をしなければならない」というだけでは、具体的に如何なる行為を被告等に求めるものであるかが明確でなく、申立の範囲が一定していないといわなければならない。当裁判所はこの点について原告等に対して釈明し請求の趣旨を適宜訂正し申立の範囲を一定明確ならしめるよう促がしたのであるが原告等は請求の趣旨の記載を変更する意思なしとしてその釈明に応ぜず従つて原告等の本訴請求はその請求の趣旨に於て申立の範囲が一定しない不適法なものとした爾余の点を判断するまでもなく却下する他はない。

原告等の真意が被告玉島市長に対しては南浦部落の分離案を玉島市長に上程すること被告岡山県知事に対しては同部落の玉島市よりの分離及び奇島町への併合を玉島市並に奇島町へ勧告すべきことを求めるにあるものとするも、関係行政庁に対し一定の行政処分をなすべきことを求める行政訴訟は、三権分立の建前をとる日本国憲法の下では原則として許されず、法令に特別の規定がある場合に限り許されるものと解すべきところ、前記の如き訴訟を提起し得ることを認めた法令は存しないからたとえ原告の本訴請求の趣旨を前記のように訂正してもこれ亦不適法として却下を免れないものである。なお、この結論はたとえ行政庁が行政処分をなすべきことを約束したとしても何等の影響を受けるものではない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 三関幸太郎 藤村辻夫 藪田康雄)

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